【この記事の結論】
腰椎の手術後も痛みやしびれが残る状態は「持続性脊椎疼痛症候群(PSPS-T2)」と呼ばれ、初回手術を受けた方の約15%(7人に1人)に生じることが8万5千人規模の研究で示されています。ポイントは次の3つです。①手術の多くは「成功」している——画像上の問題は解決されている。②術後に残る痛みには「手術で取れるタイプ」と「手術では取れないタイプ」がある。③手術では取れないタイプの痛みに対しては、運動療法や徒手療法(関節の構成運動・副運動)といった保存的アプローチが有効であることが、久留米の臨床現場でも実感しており、質の高い研究で証明されています。
85,643人。
これは、初回の腰椎手術を受けた患者さんを対象にした世界規模の研究(16の研究を統合した大規模メタアナリシス)で集められたデータの総数です(※1)。
その結果、約15%——つまり7人に1人が、手術から半年以上経っても痛みが続いていました。
もしあなたが今、「手術したのに、まだ痛い」「むしろ前より辛いかもしれない」と感じているなら、まず知ってほしいことがあります。
あなただけではありません。 そして、あなたの手術が「失敗」だったとも限りません。
この記事では、「手術後も残る痛み」の正体を3つのタイプに分けて解説します。自分の痛みがどのタイプに当てはまるかを知ることが、次の一歩を見つけるための最大のカギになるからです。
※足に力が入らない、排尿・排便に異常がある、発熱がある場合は、この記事を読む前に整形外科を受診してください。この記事は重篤な疾患が除外された方を対象としています。

- 久留米でも増えている「手術後の腰痛」——手術は「失敗」ではない
- 術後の腰痛は「どのタイプ」?——3つの痛みの正体を久留米の整体院が解説
- 手術で腰痛が取れないのはなぜか——タイプ①にしか届かない理由
- 術後の腰痛改善に有効なアプローチ——研究が証明していること
- 「痛みのない窓」——久留米の整体院が徒手療法と運動療法をセットにする理由
- 【改善例】久留米市 60代男性——脊柱管狭窄症の手術後2年、「もう治らない」と思っていた腰痛が変わるまで
- 術後の腰痛を自分で和らげるためのセルフチェックとセルフケア
- 術後の腰痛でも「まず整形外科に戻るべき」4つの危険信号
- よくある質問(Q&A)
- まとめ——腰の手術後の痛みは「あなたのせい」ではない
久留米でも増えている「手術後の腰痛」——手術は「失敗」ではない
「手術が失敗だったんじゃないか」
そう思っている方は多いと思います。実際、久留米市内で当院に来られる方の中にも、「手術しなければよかった」「あの病院を選んだのが間違いだった」と自分を責めている方が多くいらっしゃいます。
しかし、術後に痛みが残るケースのほとんどで、手術そのものは医学的に「成功」しています。 飛び出していた椎間板は除去されている。狭くなっていた脊柱管は広げられている。レントゲンやMRIを見れば、手術前と後で構造的には明らかに改善しています。
では、なぜ痛みが残るのか。
この状態は、長年「脊椎手術後疼痛症候群(Failed Back Surgery Syndrome:FBSS)」と呼ばれてきました。直訳すれば「背中の手術に失敗した症候群」です。
しかし近年、国際疼痛学会(IASP)と国際疾病分類(ICD-11)の改訂に伴い、この呼び名は見直されました(※2)。新しい名称は**「持続性脊椎疼痛症候群タイプ2(PSPS-T2)」**——つまり、脊椎手術後に持続する痛みを指す国際的な正式名称です。
なぜ名前が変わったのか? それは、痛みが残る原因が「手術の失敗」ではなく、手術だけでは解決できない神経や体の変調にある、という医学的な理解が深まったからです。
この名称変更そのものが、一つの大きなメッセージです。
「あなたの手術は失敗していない。ただ、手術がカバーできる範囲の外に、まだ対処すべき問題が残っている」
術後の腰痛は「どのタイプ」?——3つの痛みの正体を久留米の整体院が解説
もし手術の前に、こう聞かれていたらどうでしょう。
「あなたの痛みには3つのタイプがあります。手術で取れるもの、手術では取れないもの、そして手術をきっかけに新しく生まれるもの。あなたの痛みは、このうちどれですか?」
実際にこんな質問をされた方は、ほとんどいないはずです。でも、今からでも遅くありません。痛みの「タイプ」を知ることが、これからの方向性を決める出発点になります。
持続性脊椎疼痛症候群(PSPS-T2)とは、手術後6ヶ月以上にわたり持続する腰痛・下肢痛の総称であり、その病態は以下の3つのタイプに分類できます。
【術後に残る痛みの3つのタイプ】
タイプ①:まだ物理的に「押されている」痛み(構造的な原因が残っているケース)
タイプ②:手術の「傷痕」が神経を縛っている痛み(手術そのものが残した問題)
タイプ③:脳が痛みを「覚えてしまった」(中枢感作・神経の過敏化)
タイプ① まだ物理的に「押されている」痛み——構造的な原因が残っているケース

これは、手術で取り除くべき問題が残っている、あるいは新たに生まれたケースです。
代表的なものに、次のような状態があります。
ヘルニアの再発。 一度摘出した椎間板が、再び飛び出してくるケースです。初回手術後の再手術率は、5年以内で4〜15%と報告されています。
除圧が不十分だった。 狭くなっていた神経の通り道を広げる手術で、まだ十分に広がりきっていない場所が残っているケースです。
隣接椎間障害(りんせつついかんしょうがい)。 これは少しイメージしにくいかもしれません。こんな例え話で考えてみてください。
古い家の傷んだ柱を1本、新品に交換したとします。その柱自体は完璧に直った。でも数ヶ月後、隣の古い柱にヒビが入り始めた。なぜか? 新品の柱は硬く強くなったぶん、隣の古い柱に今までかかっていなかった力が集中してしまったからです。
脊椎固定術(ボルトで背骨を固定する手術)の後に起きる「隣接椎間障害」は、まさにこの構造と同じです(※3)。固定された背骨は動かなくなります。すると、本来は各関節で少しずつ分散されていた動きのエネルギーが、固定された直上や直下——特に仙腸関節(骨盤の関節)に集中してしまうのです。
「手術した場所は治ったのに、別の場所が痛くなった」という方は、この隣接椎間障害が起きている可能性があります。
タイプ①の痛みは、画像検査で確認できるケースが多いです。
もしまだ主治医に相談していなければ、一度MRIの再評価をお願いしてみてください。場合によっては、再手術が有効な選択肢になることもあります。当院で対応できる範囲ではないため、まずは整形外科での評価が最優先です。
→ 隣接椎間障害と仙腸関節への影響については:[仙腸関節が腰痛の「隠れた主犯」になるとき]
タイプ② 手術の「傷痕」が神経を縛っている痛み——手術そのものが残した問題

これは、手術が成功したからこそ生まれる、やっかいな問題です。
私たちの体は、傷を治す天才です。しかし、その「治す力」が強すぎると、別の問題を引き起こすことがあります。
硬膜外線維化(こうまくがいせんいか)。 聞き慣れない言葉だと思います。簡単に言うと、手術の傷が治る過程で、神経の周りに過剰な「かさぶた」ができてしまう状態です。
外の傷にかさぶたができるのは目に見えますし、やがて自然に剥がれます。しかし背骨の内部にできる「かさぶた」は外から見えず、剥がれることもなく、神経にべったりとくっついたまま硬くなっていきます。
この癒着(ゆちゃく)は、神経の正常な「すべり」を奪います。体を曲げたり伸ばしたりするたびに、本来スルスルと滑るべき神経が引っ張られ、締め付けられる。これが術後特有の、焼けるような・ジンジンするような痛みの原因の一つです。
研究によると、この硬膜外線維化は**術後に残る痛みの原因の約20〜36%**を占めるとされています(※4)。
もう一つ、手術そのものが残す問題があります。
多裂筋(たれつきん)の脂肪浸潤。 多裂筋は、背骨のすぐそばについている深層の筋肉で、腰を支える「天然のコルセット」の一部です。手術で腰を切開するとき、この筋肉を左右に押し分けてアプローチします。すると、手術後にこの筋肉が萎縮し、筋繊維が脂肪に置き換わっていくことがあります(※5)。
霜降り肉のようになった多裂筋は、もう背骨を支える仕事ができません。当院の言葉で言えば、多裂筋が**「サボり筋」になった状態です。その代わりに表面の大きな筋肉が過剰に働く「ガンバリ筋」**に変わり、腰全体が常に張っている・重い・固まっている、という慢性的な不快感を生み出します。
→ サボり筋とガンバリ筋のメカニズムについて詳しくは:[マッサージしても戻る「本当の原因」は、お腹の筋肉がサボっていること]
タイプ②の痛みに対して、再手術は慎重に考える必要があります。
癒着を剥がすために再度メスを入れれば、さらに大きな瘢痕組織ができるリスクがあるからです。再手術の成功率は初回手術より著しく低く、合併症のリスクも高まることが複数の研究で示されています(※2)。
→ 血流障害と神経の酸欠のメカニズムについては:[慢性疼痛における組織生理学的機能不全と改善戦略]
タイプ③ 脳が痛みを「覚えてしまった」——神経の過敏化

3つ目のタイプは、最も理解されにくく、そして最も多くの方が「気のせいだ」と片付けられてしまっている痛みです。
「先生、レントゲンもMRIもきれいなのに、なぜこんなに痛いんですか?」
この質問に対して、「画像では異常がないので、様子を見ましょう」と言われた経験はありませんか?
画像に異常が映らないのに痛い。これは気のせいでも、精神的な問題でもありません。
長期間にわたる痛みの入力が、脳と脊髄の「痛みの感度」を異常に高くしてしまっている状態です。医学用語では「中枢感作(ちゅうすうかんさ)」と呼ばれます(※6)。
わかりやすく言えば、スピーカーのボリュームつまみが壊れて、最大のまま固定されてしまったような状態です。
本来なら痛みと感じないはずの軽い刺激——ベッドの上で寝返りを打つ、靴下を履こうとかがむ——が、脳では「大きなダメージを受けた!」という激しい信号として処理されてしまう。
さらに厄介なのは、恐怖が痛みを強化する悪循環です。
「動いたらまた痛くなるのでは」「また手術になるのでは」という恐怖(恐怖回避思考)が脳を過敏にし、過敏になった脳がさらに小さな刺激でも痛みの信号を出す。そしてその痛みがまた恐怖を強くする——このループが回り始めると、画像上の構造が完全に正常であっても、痛みだけが延々と続くのです。
→ 中枢感作と神経の過敏化のメカニズムについては:[なぜ痛みは消えないのか?「神経の酸欠」と「センサーの誤作動」を生理学から解説]
ここまで読んで、「自分は全部当てはまるかもしれない」と感じた方もいるかもしれません。
それは正しい直感です。
多くの方は、この3つのタイプが混ざり合っています。 タイプ①の構造的な問題が長引くことでタイプ③の中枢感作が進み、タイプ②の瘢痕癒着がタイプ①のような放散痛を生む——こうした重なりが、術後の痛みを「何をしても治らない」と感じさせる最大の理由です。
手術で腰痛が取れないのはなぜか——タイプ①にしか届かない理由
手術が行うのは、突き詰めて言えば**「物理的な圧迫を取り除く」こと**です。
飛び出した椎間板を削る。狭くなったトンネルを広げる。ぐらつく骨をボルトで固定する。これらはすべて、目に見える構造的な問題に対する物理的な介入です。
しかし、タイプ②の瘢痕癒着による神経の「化学的な炎症」や、タイプ③の脳と脊髄に定着した「過敏化プログラム」には、メスは届きません。
パソコンに例えると、こう考えてみてください。
ハードディスクが壊れていたから交換した(手術)。でも、OS自体にバグがある(脳の過敏化)のに、ハードを替えてもバグは直らない。おまけに、交換作業中にケーブルの接続部分にホコリが詰まった(瘢痕癒着)。ハードディスクは新品なのに、パソコンは相変わらず不具合を起こしている。
手術を否定しているのではありません。タイプ①の問題に対して、手術は最も効果的なアプローチです。しかし、タイプ②とタイプ③に対しては、手術とは別のアプローチが必要だということです。
術後の腰痛改善に有効なアプローチ——研究が証明していること
ここからは、手術では届かなかった痛みに対して、どんな方法が有効なのかを、学術的な研究データとともにお伝えします。
「整体で治ります」と無責任に言うつもりはありません。質の高い研究——ランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシス(複数の研究を統合した分析)——が示すデータに基づいてお話しします。
運動療法——「壊れた天然のコルセット」を再建する
タイプ②で説明した通り、手術によって多裂筋が脂肪に変わり、腰を支える機能が失われていることが多くの術後患者さんに共通しています。
この**「サボり筋」を目覚めさせ、「ガンバリ筋」の負担を減らす**ための最も確実な方法が、運動療法です。
術後に痛みが残っていた100名の患者さんを対象としたランダム化比較試験(Joら、2015)では、動的腰椎安定化運動(体幹の深層筋を段階的に鍛えるプログラム)を8週間実施したグループで、痛みのスコア(VAS)が68.7から25.0へと約64%減少しました(※7)。これは自宅で軽いストレッチをしただけのグループ(64.6→47.1、約27%減少)と比較して、はるかに大きな改善です。
また、14件のランダム化比較試験を統合したメタアナリシスでも、筋力強化・安定化・有酸素運動を組み合わせた運動プログラムが、教育やアドバイスだけと比較して、痛みと機能障害の改善に中等度から高い効果をもたらすことが確認されています(※8)。
ただし、ここで一つ重要な注意点があります。
術後の痛みが強い状態で、いきなり筋トレを始めてはいけません。
痛みで過敏になっている脳は、運動を「脅威」と判断します。すると筋肉はさらに防御的に固まり、かえって痛みが増幅する。これが「運動したのに悪くなった」という経験の正体です。
では、どうすればいいのか。ここで鍵になるのが、次に説明する徒手療法の役割です。
徒手療法——痛みの「ボリュームを下げる」
以前の物理療法やカイロプラクティックの世界では、徒手療法(手技療法)の効果を「ずれた骨を元に戻すこと」で説明していました。
しかし、現在の痛みの神経科学では、このモデルは否定されています(※9)。
では、徒手療法は何をしているのか?
2009年にBialoskyらが提唱し、2018年に更新された「包括的神経生理学的モデル」によれば、徒手療法が行っているのは**骨の矯正ではなく、神経系の「リセット」**です(※9)。
少し専門的になりますが、大切なことなのでお伝えします。
関節にソフトな刺激を加えると、その信号は脊髄を通って脳幹にある「痛みの制御センター(中脳水道周囲灰白質:PAG)」に届きます。すると脳は、脊髄に向かって**「痛みの信号を抑えろ」**という指令を出します。これが「下行性疼痛抑制系(かこうせいとうつうよくせいけい)」と呼ばれるシステムです(※10)。
同時に、痛みで異常に興奮していた筋肉の緊張が神経学的に解除されます。力ずくで筋肉を揉みほぐすのではなく、脊髄レベルの反射ループをリセットすることで、防御的に固まっていた筋肉が自然に緩む。
要するに、徒手療法とは**「壊れたボリュームつまみを正常な位置に戻す作業」**なのです。
当院では、この徒手療法をボキボキ鳴らすような手技ではなく、**構成運動(関節の本来の滑り・転がりの微細な動き)と副運動(関節の「遊び」)**を用いた極めてソフトなアプローチで行います。
術後に金属のインプラント(ボルトやロッド)が入っている方でも、固定された椎間には直接触れず、隣接する胸椎や股関節の可動性を引き出すことで、固定部にかかっている代償的な負荷を分散させることが可能です。
→ 構成運動・副運動と神経生理学的メカニズムについて:[関節機能障害 — 画像診断の死角に存在する「痛みの正体」の科学的考察]
術後に痛みが残った患者さんを対象としたシステマティックレビュー(Yoonら、2022、12件のRCTを抽出)では、徒手療法と運動療法の併用が、**運動療法単独と比較して痛みの軽減に統計的に有意に優れていた(P < 0.01)**ことが実証されています(※11)。
さらに注目すべきは、徒手療法群と運動療法群を直接比較した研究です。2ヶ月間の治療後、徒手療法群の67%が職場復帰を果たしたのに対し、運動療法群では27%にとどまりました(※12)。
これは、運動療法が効かないということではありません。運動療法の効果を最大限に引き出すためには、先に徒手療法で神経の過敏化をリセットする必要があるということです。
神経モビライゼーション——癒着した神経を「滑らせる」
タイプ②で説明した硬膜外線維化(瘢痕癒着)に対しては、関節へのアプローチだけでなく、神経そのものの「滑り」を物理的に回復させる手技が特異的な効果を発揮します。
これが「神経モビライゼーション」と呼ばれる介入です。
隣り合う関節を交互に動かすことで、神経を「伸ばす」と「緩める」を繰り返し、周囲の組織との間に本来の滑走性を取り戻すアプローチです。
2024年に発表された最新のランダム化比較試験(Dhakeら、術後患者76名を対象)では、従来の物理療法だけを行ったグループと比較して、**腰椎安定化運動に神経モビライゼーションを併用したグループは、痛みの軽減・筋力の向上・機能障害の改善のすべてにおいて、極めて有意かつ顕著な差(p < 0.0001)**を示しました(※13)。
また、7件のRCTを統合した2024年のメタアナリシス(Chenら)でも、神経モビライゼーションが痛みと機能障害の有意な改善をもたらすことが確認されています(※14)。
なぜここまで差が出るのか。
単純な筋力強化だけでは、瘢痕に縛られた神経の異常な発火(異所性発火)を止めることができないからです。神経モビライゼーションによる物理的な「滑り」が、神経周囲に溜まった炎症物質を分散させ、神経への血流を回復させ、癒着を徐々に剥がしていく。これが、運動だけでは到達できなかった改善をもたらしている要因だと考えられています。
→ 神経の滑走性と血流障害の関係については:[その坐骨神経痛、実は「神経の酸欠」かも?4つの関所の正体]
「痛みのない窓」——久留米の整体院が徒手療法と運動療法をセットにする理由
ここまでのデータが一貫して示しているのは、徒手療法と運動療法を「組み合わせる」ことで、どちらか単独をはるかに超える効果が生まれるという事実です。
なぜ、組み合わせるとそこまで違うのか。
当院ではこれを**「痛みのない窓」**と呼んでいます。
冬の朝、車のフロントガラスが凍っている場面を想像してください。凍ったままワイパーを動かしたら、ガラスに傷がつくだけです。まずデフロスター(暖房)で霜を溶かし、**視界が開いた数分間の「窓」**の間にワイパーをかける。これが正しい順序です。
徒手療法がデフロスターです。構成運動・副運動で関節の遊びを回復させ、下行性疼痛抑制系を駆動し、脳のボリュームを一時的に下げる。すると、**痛みが和らいだ「窓」**が開きます。
この窓が開いている間に、運動療法を入れる。
痛みなく体を動かせたという成功体験が、脳に**「この動きは安全だ」「体幹の支持機能は確保されている」**という新しい情報を送り込む。脳はこの体験を学習し、徐々に過敏化プログラムを書き換えていきます。
つまり——
徒手療法が「短期的な痛みの遮断と運動の許可」を出し、運動療法が「長期的な組織の強化と、脳への安全信号の再学習」を行う。
この二つは独立した選択肢ではなく、因果関係として不可分に補い合う関係にあるのです(※11, ※13)。
当院が施術の中で、構成運動・副運動による関節機能の回復、血流障害の解除、神経ストレスの解放(三本柱)を行った直後に、必ず運動療法を組み込む理由は、ここにあります。
→ 三本柱アプローチの詳細については:[キネマティックチェーンと慢性痛|「治療しても繰り返す腰痛の正体」を全身のつながりから解説]
【改善例】久留米市 60代男性——脊柱管狭窄症の手術後2年、「もう治らない」と思っていた腰痛が変わるまで
Kさん(仮名・60代・久留米市在住)は、2年前に久留米市内の総合病院で脊柱管狭窄症の除圧術(椎弓切除術)を受けました。
手術直後は「歩ける距離が伸びた」と喜んでいたのですが、半年ほど経った頃から、今度は腰の重だるさと右太もも裏のジンジンするしびれが再び出始めました。主治医からは「手術は成功しています。画像にも問題ありません」と言われ、痛み止めを処方されましたが変わらず。整骨院に半年通って腰のマッサージと電気治療を受けましたが、一時的に楽になっても翌朝には元通り。
「もう治らないのかもしれない」——そう思いながら、奥様の勧めで当院に来られました。
当院の検査で見つかったもの
Kさんの痛みの訴えは「腰の重だるさ」と「右太もも裏のしびれ」でしたが、画像上の狭窄はすでに解消されています。つまり、タイプ①ではない。
全身の検査を行うと、以下が見つかりました。
手術で切開された部位の多裂筋がほぼ機能していない(サボり筋化)。代わりに脊柱起立筋が過剰に緊張しているガンバリ筋の状態。腹横筋もほとんど反応しない。右のSLR(足の挙上テスト)で50度にて太もも裏に放散痛。これは硬膜外線維化による神経の滑走制限を示唆する所見です。胸椎の可動性が著しく低下しており、腰椎への代償的な負荷が集中していました。
つまりKさんの痛みは、タイプ②(瘢痕癒着+多裂筋の脂肪浸潤)とタイプ③(2年間の痛みによる中枢感作)が重なった状態でした。
施術の経過
初回から3回目までは、腰には直接触れず、胸椎の構成運動・副運動と股関節の可動性回復からスタートしました。3回目の施術後、Kさんが「腰の重だるさが半分くらいになった気がする」と報告。SLRも50度→65度に改善。
4回目以降、「痛みのない窓」が開いたタイミングで、仰向けでのドローイン(息を吐きながらお腹を膨らませる方法)を導入。最初は「お腹を膨らませるって意味がわからない」と苦笑していたKさんですが、5回目に指先の下から「グッ」と押し返す感覚が出た瞬間、「今、何か奥で動いた」と目を丸くされました。サボっていた腹横筋にスイッチが入った瞬間です。
2ヶ月後(8回の施術後)。右太もものしびれはほぼ消失し、ゆめタウン久留米での買い物も休憩なしで歩き通せるように。SLRは80度まで改善し、朝の腰の固さも「以前の3割くらい」まで減ったとのこと。
現在は月1回のメンテナンスで良好な状態を維持されています。「2年間動けなかった分、今は奥さんと筑後川沿いを歩くのが楽しい」と笑顔で話されています。
※個人の感想であり、効果には個人差があります。医療機関での診断や治療を否定するものではありません。
術後の腰痛を自分で和らげるためのセルフチェックとセルフケア
ここまで読んで、「自分の痛みはどのタイプなのか知りたい」と思った方へ。
セルフチェック:3つの質問
質問①:痛みの場所は、手術前と変わりましたか?
→ 「手術した場所はましになったが、別の場所が痛くなった」場合、タイプ①(隣接椎間障害)の可能性があります。まず整形外科での画像評価をおすすめします。
質問②:安静にしていても痛みがありますか? 天気や気分で痛みの強さが変わりますか?
→ 「じっとしていても痛い」「天気が悪い日は特に辛い」「不安なときに痛みが強くなる」場合、タイプ③(中枢感作・神経の過敏化)の可能性があります。
質問③:同じ姿勢が続くと痛みが増しますか? 動き出しが特に辛いですか?
→ 「座りっぱなしの後に立つのが辛い」「朝起きたときが一番固い」場合、タイプ②(瘢痕癒着・筋萎縮)の可能性があります。
正確な判断には専門的な評価が必要ですが、まずは以下の3つの質問で大まかな傾向をつかむことができます。
3つとも当てはまる方も珍しくありません。Kさんのように、一つの痛みに一つの原因とは限らないからです。
術後の方に特化した「今日からできる」3つのセルフケア
① 仰向けドローイン——術後に失われた「天然コルセット」を内側から再建する
通常のドローイン(お腹を凹ませる方法)ではなく、息を吐きながらお腹を膨らませる方法で行います。腹横筋は呼気時に最も効率よく収縮するため、吐く動作と腹圧を同時にかけることで、手術で萎縮した多裂筋の代わりに腰を支える「内側からの安定装置」を起動させます。
仰向けに寝て膝を立て、両手をおへその横に軽く置きます。鼻から吸って、口からゆっくり吐きながら、お腹を指先で押し返すように膨らませる。5秒キープ、1日5回から。ボルトが入っている方でも、腰に負荷をかけずに安全に行えます。
② 術後の神経すべり改善——足首ポンプ運動
仰向けに寝て、片足をまっすぐ天井に向けて持ち上げます(痛みが出ない角度まででOK)。その状態で足首をゆっくり上下に10回動かします。これは神経モビライゼーションの基本原理を応用した自主トレーニングで、硬膜外線維化で「縛られた」坐骨神経のすべりを穏やかに改善する効果があります。
左右各10回×朝晩2セット。痛みやしびれが強くなる場合は角度を下げるか、中止してください。
③ 「動いても大丈夫だった」という小さな成功体験を1つ作る
台所まで歩く距離を1往復だけ増やす。いつもより10メートルだけ長く散歩する。「動いたのに痛みが増えなかった」というたった一つの経験が、脳の過敏化プログラム(タイプ③)を書き換えるきっかけになります。
もし、どれかを試してみて少しでも変化を感じたなら、あなたの痛みは「構造の問題」ではなく「機能の問題」である可能性が高い。つまり、改善の余地は十分にあるということです。
術後の腰痛でも「まず整形外科に戻るべき」4つの危険信号
術後の痛みのほとんどは、ここまで解説した3つのタイプで説明できます。しかし、ごくまれに緊急を要する状態が隠れていることがあります。
以下の4つに一つでも当てはまる場合は、この記事を読んでいる場合ではありません。今すぐ整形外科を受診してください。
すぐに整形外科へ行くべき4つの危険信号(レッドフラッグ)
① 排尿・排便のコントロールが難しくなった(出にくい、漏れる、感覚がない)
② 足の筋力が明らかに低下している(つま先立ちができない、スリッパが脱げる)——特に日に日に悪化している場合
③ 発熱がある(38度以上)——術後の感染症の可能性
④ 安静にしていても夜間に激しい痛みがあり、日に日に悪化している
これらは「馬尾症候群」や術後感染など、緊急手術が必要な状態の可能性を示すサインです。整体の範囲を超えた医療的な対応が必要です。
よくある質問(Q&A)
- Q手術は失敗だったのでしょうか?
- A
ほとんどの場合、手術そのものは成功しています。画像上の構造的な問題は改善されているケースが大半です。残っている痛みは、瘢痕癒着・筋萎縮・神経の過敏化など、手術のカバー範囲外の要因であることが多いです。主治医の先生を責める必要はありません。
- Q再手術を勧められていますが、どうすべきですか?
- A
再手術が適応となる明確な所見(進行性の神経脱落症状、不安定性の増悪など)がある場合は、主治医の判断を尊重してください。一方で、画像上の明確な異常がないにもかかわらず痛みが続いているケースでは、まず保存的な治療(運動療法・徒手療法)を試みることが国際的なガイドラインでも推奨されています(※2)。セカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。
- Q術後何年経っていても改善しますか?
- A
中枢感作は長年続いていても、適切な介入で変化しうることが研究で示されています。徒手療法は下行性疼痛抑制系という脳のシステムに働きかけるため、「何年前の手術か」ではなく「今の神経の状態がどうか」が重要です。当院でも、Kさんのように術後2年以上経過した方が改善されたケースがあります。
- Q整形外科に通いながら整体も受けられますか?
- A
はい。整形外科での画像検査と医学的管理は非常に大切です。その上で、画像に映らない「関節の機能障害」や「筋肉の不活性化」に対するケアを当院で並行されている方は多くいらっしゃいます。主治医の先生の治療と当院のアプローチは、役割が異なるため併用が可能です。
- Q固定術のボルトが入っていても施術は可能ですか?
- A
はい。当院のアプローチは、固定された椎間に直接力を加えることはありません。固定部位には触れず、その上下の胸椎や股関節、仙腸関節の可動性を回復させることで、固定部にかかっている代償的な負荷を分散させます。インプラントが入っている方こそ、隣接する関節のケアが重要です。
- Q術後の痛みに対してストレッチは有効ですか?
- A
痛みの原因がタイプ②(瘢痕癒着・筋萎縮)やタイプ③(中枢感作)の場合、無理なストレッチはかえって痛みを悪化させることがあります。過敏化した神経に強い伸張刺激を与えると、脳が「脅威」と判断して筋肉をさらに固めてしまうからです。まずは徒手療法で痛みの「ボリューム」を下げてから、段階的に運動を入れていくのが安全です。
→ ストレッチが逆効果になるケースについて:[ストレッチで腰痛が悪化する3つの理由]
まとめ——腰の手術後の痛みは「あなたのせい」ではない

長い記事をここまでお読みいただき、ありがとうございます。
腰の手術後に残る痛みは、あなたの手術が失敗だったからではありません。手術では届かなかったタイプの痛みが残っている——それだけのことです。
そして、そのタイプの痛みに対しては、運動療法や徒手療法という科学的に検証されたアプローチが存在します。
「自分の場合はどのタイプだろう?」「ボルトが入っているけど大丈夫?」——そんな疑問があれば、遠慮なくLINEでご相談ください。ご相談だけでも大歓迎です。
この記事を書いた人 髙田広樹(整体ポノ 院長) 久留米市の腰痛専門整体院 整体ポノ院長。病院で救えなかった方を救うため、10年以上にわたり全国を渡り歩いて磨き上げた技術と、国際的な学術論文に基づく理論を融合させた独自のアプローチを提供。椎間板ヘルニア・坐骨神経痛・慢性腰痛を専門とし、一人治療院として初回から最後まで全て一人で担当する。
腰痛専門整体院 整体ポノ (福岡県久留米市東櫛原町2871-15/駐車場有/9:00〜21:00 日祝休) 西鉄久留米駅から車で約8分|ゆめタウン久留米から車で約5分
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- [「治療しても繰り返す腰痛の正体」を全身のつながりから解説]
参考文献(エビデンスに基づく科学的根拠)
※1 Alshammari HS, Alshammari AS, Alshammari SA, Ahamed SS. (2023). Prevalence of Chronic Pain After Spinal Surgery: A Systematic Review and Meta-Analysis. Cureus, 15(7):e41841. DOI: 10.7759/cureus.41841(16研究、85,643人の統合解析。有病率14.97%、95%CI: 12.38-17.76)
※2 Goudman L, et al. (2025). Treatment modalities for patients with Persistent Spinal Pain Syndrome Type II: A systematic review and network meta-analysis. Communications Medicine, 5:56. DOI: 10.1038/s43856-025-00778-x /Schug SA, et al. (2019). The IASP classification of chronic pain for ICD-11: chronic postsurgical or posttraumatic pain. Pain, 160:45-52.
※3 Hashimoto K, Aizawa T, Kanno H, Itoi E. (2019). Adjacent segment degeneration after fusion spinal surgery — a systematic review. International Orthopaedics, 43:987-993. DOI: 10.1007/s00264-018-4241-z
※4 Tsai YH, et al. (2022). Nerve Root Entrapment Due to Epidural Fibrosis in a Patient With Failed Back Surgery Syndrome. Frontiers in Medicine, 9:860545. DOI: 10.3389/fmed.2022.860545 /Asian Spine J. (2015);9(3):370-385. DOI: 10.4184/asj.2015.9.3.370(硬膜外線維化はPSPS-T2症例の20〜36%を占める)
※5 Zotti MGT, Boas FV, Clifton T, Piche M, Yoon WW, Freeman BJC. (2017). Does Pre-operative Magnetic Resonance Imaging of the Lumbar Multifidus Muscle Predict Clinical Outcomes Following Lumbar Spinal Decompression for Symptomatic Spinal Stenosis? European Spine Journal, 26(10):2589-2597. DOI: 10.1007/s00586-017-4986-x
※6 Schug SA, et al. (2019). The IASP classification of chronic pain for ICD-11. Pain, 160:45-52. /中枢感作と術前の心理社会的要因がPSPS-T2の予測因子であることを示す複数のシステマティックレビュー。
※7 Jo HJ, et al. (2015). The effect of isokinetic and dynamic lumbar stabilization exercises in patients with failed back surgery syndrome. Korean Journal of Rehabilitation Medicine(FBSS患者100名の単盲検RCT。VAS:DLS群68.7→25.0、等速性運動群67.7→22.8、p < 0.05)
※8 Daniell JR, Muchai JN. (2022). Exercise Interventions for Outcomes Following Lumbar Spine Decompression Surgery: A Systematic Review and Meta-analysis. Spine, 47(16):E654-E664. DOI: 10.1097/BRS.0000000000004363(14件のRCT。エフェクトサイズ0.51〜0.53)
※9 Bialosky JE, et al. (2009). The Mechanisms of Manual Therapy in the Treatment of Musculoskeletal Pain: A Comprehensive Model. Manual Therapy, 14(5):531-538. DOI: 10.1016/j.math.2008.09.001 /Bialosky JE, et al. (2018). Unraveling the Mechanisms of Manual Therapy: Modeling an Approach. JOSPT, 48(1):8-18. DOI: 10.2519/jospt.2018.7476
※10 Lascurain-Aguirrebeña I, et al. (2016). Mechanism of Action of Spinal Mobilizations: A Systematic Review. Spine, 41(2):115-127. DOI: 10.1097/BRS.0000000000001151(24研究。サブスタンスP濃度低下、交感神経系興奮と鎮痛効果の相関を確認)
※11 Yoon HR, et al. (2022). Manual Therapy for Failed Back Surgery Syndrome: A Systematic Review. Healthcare, 10(12):2396. DOI: 10.3390/healthcare10122396(12件のRCT抽出、3件のメタアナリシス統合。徒手療法+運動療法 vs 運動療法単独:P < 0.01)
※12 Aure OF, Nilsen JH, Vasseljen O. (2003). Manual therapy and exercise therapy in patients with chronic low back pain: a randomized, controlled trial with 1-year follow-up. Spine, 28(6):525-531. PMID: 12642755(職場復帰率:徒手療法群67% vs 運動療法群27%、P < 0.01。2ヶ月の治療期間直後のデータ。長期フォローアップでも差が維持)
※13 Dhake P, et al. (2024). Effect of Lumbar Spinal Stabilization Exercises Along With Neural Tissue Mobilization on Pain and Spinal Dysfunction in Failed Back Surgery Syndrome. Cureus, 16(1):e52869. DOI: 10.7759/cureus.52869(FBSS患者76名。安定化運動+NM併用群 vs 従来物理療法群:p < 0.0001)
※14 Chen Q, et al. (2024). Efficacy of neuromobilization in the treatment of low back pain: Systematic review and meta-analysis. Journal of Back and Musculoskeletal Rehabilitation, 37(3):589-601. DOI: 10.3233/BMR-230117(7件のRCT。VAS平均差0.62、ODI平均差7.54の有意な改善)
※本記事は情報提供を目的としたものであり、診断・治療行為ではありません。症状が強い場合や急激に悪化する場合は、医療機関へのご受診をお勧めします。


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